ぼくにとってはじめての、原節子の出ていない小津映画。
もう、これでわかった。
たとえ原の輝きがなくても、小津映画はスコブルおもしろいのだと。



『お茶漬の味』には、二組のカップルが登場する。

一組目は、佐分利信と小暮実千代のカップルで、
こちらは見合い結婚をした壮年期の夫婦。
田舎出の佐分の、はっきりしない態度や無骨な所作、趣味の悪さを、
妻の小暮はバカにしている。
彼らの関係は、「みそ汁ぶっかけご飯(いわゆるネコマンマ)」と「お茶漬け」を小道具に語られていく。
いわく、夫婦の関係はお茶漬のように気のおけないものとのことで、
いちおうこっちの二人の話が映画のメインストーリーなんだけど、
この古典の粗筋なんかを、いまさら解説する必要もなさそうだ。
というより
ぼくの関心はもう一組のカップルの方に向いていた。



もう一組は
鶴田浩二と津島恵子の若い二人。
津島は親の決めたお見合いをすっぽかして、佐分の部下の鶴田といい仲になっていく。

この鶴田という若者が(ぼくにとっての)キーパーソンで、
彼は筋金入りの、B級グルマンなのである。

津島とラーメンをすすりながら
「ラーメンはね、おつゆがうまいんですよ」
なる箴言を吐いたかとおもいきや、つづけて
「こういうものはね、うまいだけじゃいけないんだ。安くなくちゃ」
といって、近くの串焼き屋に今度行こうと彼女を誘う。
「連れてって」と、目を輝かせる津島。

そのシーン、はっきりいってうらやましすぎ!

男子の夢なんじゃなかろうか。ジャンクフードで女の子を誘うというのは。
野菜のおいしいフレンチなんかじゃなくて、串焼き。
たぶん二人が後日行くであろう串焼き屋では、
「タレは二度漬けしないのがルールなんだよ」なんて鶴田がいって、
それを津島は感心したふうに聞いてくれるのだろう。やれやれ。


で、その夢の実行者・鶴田が行きつけているトンカツ屋が
「カロリー軒」なる名前で、おもわず吹き出した。
そりゃたしかに、トンカツはカロリー高いんだけどさ。
カロリーとくれば
「控えめ」とか「オフ」とかいうコトバが枕につく今からすれば、
高カロリー=「うまい」
という図式は新鮮だ。
いまの時代には、ぜったいつけられない店名だけど。

ちなみに「カロリー軒」の向かいにあるパチンコ屋の看板には
「人生甘辛劇場」という文字があって、
これもたしかにパチンコってそうなんだろうけど、表現がストレートすぎて苦笑。