京都から来た知人を連れて、押上の居酒屋を回ってきた。

押上と業平のあいだ、四ツ目通りに沿ったエリアが熱い。
前回、その知人が来たときには、「散歩の達人」で1頁をかざっていた同じエリアの某居酒屋に入った。
「うまいうまい、ここ気に入ったわ」と知人はいうのだけど、
ぼくにはよくわからない味。ホルモン焼きを「塩で」と頼んだときに、
純然たる塩化ナトリウムをふりかけるのを見ていると、食べ物が殺されているようでつらい。
そのナトリウムまみれの肉に、さらに「味の素」をふりかけて食べる知人。
「えっ、知らないの。これかけると頭よくなるんだよ」
そう言われても……。


今回はもう少し足をのばして、業平の懐に入った。
「大黒屋」。
ホッピー酒場と、看板にあるので
「もしや……」と淡い期待を抱いて入ったら、
あった。
生ホッピーのサーバーがカウンターのなかに偉容を誇っている。
しかも黒もあるじゃん!
うれしくて気絶しそうになった。
1年くらいまえに東十条の「埼玉屋」で呑んで以来、生ホッピーにはありつけていない。
いや、そのあと浅草の「鈴芳」でも生ホッピーを呑んだけど、
ちょっと思い出したくない不味さ。氷入れないで、ちゃんとグラス冷やしてくれよ。
あやうくホッピーをきらいになるところだった。
で、「大黒屋」のホッピーは素晴らしかった。
黒を呑んで、そのあとハーフ。
堪能。
煮込みも汁気が少なくて食べやすく、肉も豆腐もしっかりしていてうまい。
びくびくしながらレバ刺しも頼んだけど、
これもプリプリと艶があって、箸が伸びる。

常連客はレモンサワーを呑んでいるようだった。
注文するとギュッとレモンを絞って、炭酸は別瓶で出してくれるシステム。
濃さはご自由に、ということで、ありがたい。
今度ためそう。
店の壁にかかる短冊状のメニューの一番はしにある「ラーメン」(400円)に
心引かれながら、次の店へ。








「なんで大黒屋でラーメン食べないのっ。バッカじゃないの」

次にいった「まるい」で、テーブル席を相席したオッチャンに糾弾される。
このへんでよく呑む人らしい。
赤ら顔で、かなりのハイテンション。聞けば浅草生まれということで、
その饒舌なオッチャンと一緒にいた、ジャンボと呼ばれる寡黙なオッチャンは、
浅草で食べ物屋をやっているとのこと。
相方が「まるい」を絶賛するよこで、
ジャンボはうんうんと大きなアゴを上下にふっていた。

「兄ちゃんたち、この店はじめてなの。
ここはねー、すっごいうまいよ。
初めてなら、注文するのは、
なんこつのホイル焼きと、シロのニンニク焼き。
これで決まり。
すごいよ。すごいうまいよ。
あとこの店にはワインもあるから。煮込み屋でワインがあるのは、
東京でここだけだから。すごいだろ。一本2800円。
えっ、白はないよ。赤だけ。なんでここで白ワインなんて呑むの? バッカじゃないの」

なんこつは品切れだった。
そして注文してからだいぶ時間が経って出てきたシロのニンニク焼き。
黒いタレのなかに、鈍く光るハツが浮かぶ。
口にして、シロってこんなにうまい部位だっただろうかと、記憶をさぐる。
いや、こんなはずではない。こんなにうまいものではなかった。
でも「まるい」のシロはいままで食べたどんなシロともちがった。
絶妙な噛みごたえがあって、
噛むほどにうまみがジュンジュンと溢れてくる。

「まるい」、すっごいよ。

混んでいて頼んだものがなかなか来ないのだけが難点か。
桜にぎりも素晴らしかった。まさに呑みながら食べたい寿司。
薄く大きく切られたサクラ肉が
口内で舌にからまりながら粘り、
シャリはホロホロとばらけていく……。

また来ような、また来ようなと
くり返している知人のうしろを、ふらつく足で追いかけて家まで帰った。