今年もよろしくお願いいたします。




年末に見た映画のことを簡単に。



まず、『恋愛睡眠のすすめ』。
ミシェル・ゴンドリーの監督作で、
例によって、最高に愛すべきところと、ばかばかしさに頭がいたくなってしまうところが混在した作品。

アパルトマンの隣人になった男女が
「ものづくり」への愛情をてがかりに接近、恋に落ちる。
フランス映画的な、というか、あだち充的なというか。
シャルロット・ゲンズブールがヒロインとして登場。
くわえタバコをしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねてくれる。ああ、しあわせ。

主人公のボンクラ君として、ガエル・ガルシア・ベルナル。
くりくりとした瞳で、妄想だけが暴走する小心者を演じて、痛々しいかぎり。

このガルシアくんのだめっぷりがすさまじくして
ストーリーのハンドリングが危うくなっている。

物語の締めくくりも、ガルシアくんが台無しにする。
ガルシアくんが一方的な思いこみで暴走したあげくに、
ゲンズブールに愛想をつかされ、
ぺしゃんこに落ち込んで、メキシコに帰ろうと荷造りをはじめるのだけど
おなじアパートに住むママに
「お別れもしないで帰っちゃだめよっ」
と怒られて、しかたなくゲンズブールの部屋のドアをノックし
顔をみるや、空元気で図々しく部屋にあがりこんで
あまつさえ彼女のベッドにもぐりこみ
(ゲンズブールはベッドの下に立ちつくして、おとこの暴挙にあきれている)、
そのまま居眠りして
ゲンズブールと仲直りする夢を見る。という終わり方をする。

どこまでもダメ。とことんダメ。
こんなんで終わってしまっていいのか。よくないだろう。
ガルシアの妄想癖が、
悪い意味での現実逃避にしかなってなくて
ひたすら後味がわるい。

最新作の『僕らのミライは逆回転』はまったく反対に
ぐだぐだの展開のすえに、着地だけは鮮やかに決まっているというふうで
ミシェル・ゴンドリーの語りのおぼつかなさは徹底しているのだけど
かといって簡単にゴンドリーを見捨てたくないのは
CG全盛の現代にあえて手作り感にこだわったハッピーな映像センスもさることながら
ゴンドリーの描く「ダメな人」に、
リアリティーを感じてしまうからだ。
ひとごとでないかんじがするのだ。


『恋愛睡眠のすすめ』にかぎっていえば、
物語の後半に、ガルシアとゲンズブールが交わす
ささやかな告白のやりとり
「70歳になったら、ぼくと結婚してくれる?
 もうそんなに損じゃないでしょ?」
「そうね」
という
胸キュンな名ラインでもって
スパッと映画を終わらせてしまうことも可能だったはず。
恋愛映画のあらたな名作になったかもしれない。

でもそれなのに
どうしようもないガルシアの失態を執拗に描き続けて
目も当てられない(物語的にはひどい)ラストを用意したところに
ゴンドリーなりのキャラクターへの筋の通し方を見てしまう。
つまり、
「人はどこまで愚かしいのか?」
という問いに
「どこまでも!」
とゴンドリーは答える。そう答えないわけにはいかない切迫感が
彼にはあるのだろう。




『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』
テーマパークに奉仕するためにつくられたかのような
見るべきところのほとんどないイベントムービーのなかで
異様な輝きを放っていたのが
撮影監督ヤヌス・カミンスキーの、擬態ぶり。

前3作まで撮影を手がけたダクラス・スローカムの感覚を
やすやすと(と、勝手に労力を減らしてしまうけど)じぶんの物にしたうえで、ブラシュアップに成功している。
違和感はある。どうあがいてもパスティーシュなのだ。
でもそれがいい。
まがいもの感にまみれたオレンジとグリーンが目にまぶしい。


スピルバーグの作品に刻まれた
「禁じられた存在を見ること」のモチーフも健在で
冒頭のプロローグ的なシークエンスのさいごにあらわれる
核実験で空にたちこめる巨大な白い雲を眺めるインディの姿は
それだけで、このシリーズの幕切れにふさわしいような
「クリスタル・スカル」中の最高のシーン(言い方を換えると、本編はいらないってことなんだけど)。

それにしても、
「なぜいま新作がつくられねばならないのか」
を観客に厳しく問われてしまう冒険活劇ってのも、かわいそうな存在だとおもう。



昨年のさいごに見た映画は
『WALL・E/ウォーリー』。
ロボットが、しかもアニメにするためにデフォルメのほどこれさた機械の身体が、しんじられないような繊細な演技をみせるラブストーリー。

監督のアンドリュー・スタントンは、『ファインディング・ニモ』につづいて、
分かちがたい関係のふたりの仲を裂くところから物語をドライブさせる。
うち捨てられた旧式ロボットのウォーリーが、
恋するイブを追いかけるために疾走するシーンの、涙腺の刺激度合いときたら。。。
『恋愛睡眠のすすめ』のガルシア君にはできなかった、ボンクラ男子の奇跡。

ウォーリーがあこがれるミュージカル映画『ハロー・ドーリー』をはじめとして、実写映像を違和感なく取り込んだ映像の設計で、ピクサーはまた新しい段階の表現にすすんでしまった。
ビジュアル・コンサルタントとして、コーエン兄弟の映画でおなじみの撮影監督、ロジャー・ディーキンスが参加しているらしい。
もう、文句つけようがない。