いろんな人がバカにしたがるトム・クルーズだけれど




夜のロサンゼルスを、一台のタクシーで動き回る殺し屋。

に、トム・クルーズが扮する。

まきこまれるタクシー運転手に、ジェイミー・フォックス。


個人的な見どころは
(1)デジタルカメラが都市の夜景をどう映すのか?

デジタルカメラは、ポストプロダクションの段階で
色調、彩度の調整ができて、夜の撮影の少ない光源にも対応できる……
というような計算があったのかなかったのか。

印象としては、撮りっぱなしにあえてしているようで
黒味はフォローされずに、ガッチリと黒く落ちている。
たぶん光はフィルムカメラ以上に拾うけれど、暗いところはしっかり黒いというのが、デジタルカメラの特性のようで、
画面設計は白黒のメリハリがついた、実験的なモノクロフィルムみたいだった。

かなり驚いたのが
冒頭近くのジェイミー・フォックスとジェイダ・ピンケット=スミスがタクシーの中でやりとりするシーン。
役者たちの肌の色が黒いために、画面がほとんど黒く染まってしまい、
何が起きているかわからなくなるのだけど、
そこで無理にスポットライトをいれずに、
まるで幕で覆ったような黒いシーンを実現するところが
ハードボイルドだとおもった。


(2)マイケル・マンの手の中で、トム・クルーズはどう踊るのか?

マイケル・マンによると、
一夜のできごとを描いたこの物語では、
主人公たちが衣装替えをする機会もないことから、
それぞれの服装にはそのキャラクターの性格を十全に反映するように神経を払ったそうで
殺し屋のトム・クルーズが着込むのは
人目をあつめないよう特徴のないグレーのスーツに白いシャツ。
ブランドものでもない。
でも、これがなんか変。

たぶん、ハリウッドスターが
映画のなかで「ふつうの服」を着ていることに、
観客であるぼくの目は慣れていないのだろう。

そういえばテレビの深夜枠にやっていたJJエイブラムスの
『LOST』を見ているときに
コマーシャルをなんとなく流していたら
不動産屋の部屋探しのコマーシャルをやっていて、
モデルの女の子がベッドにごろんと横になって
ニッコリ笑って宣伝を口にするのだけど
その笑顔のあまりのぎこちなさに、ショックを受けたことがあった。

ぼくがテレビのなかでの「自然な笑み」を見慣れすぎているために
突然あらわれた素人的なひきつりが、どうにも奇異なものに見えてしまう。
リアルな世界では、テレビのなかにいるような美少女を目にすることは、ほんとはまれなのに。

ということで、トム・クルーズの「ふつうの服」が
とても目立つということが言いたかったのだけれど
服だけが印象的なわけじゃなくって、役者としても、
燻し銀といっていいような(しかし微妙に断言したくない)新しい顔を見せていて、
こういう映画への出演を選ぶトムは、じぶんのキャリアコントロールに
かなり自覚的なのだろうなとおもった。
新作の『トロピック・サンダー』でもハゲ、デブ、毛むくじゃらの映画プロデューサー役という、なんかとんでもないことをしているみたいだし。