自伝的な文章を忌避してきた池澤夏樹だけれど
「旅」をテーマに語った言葉、エッセーなどを寄せ集めたことで
結果的に「ずっと旅をしてきた」池澤の
ライフストーリーを見渡せるという一冊。





都市とは違う理法で生きる人びとの暮らす場所に行き、
そこの魅力を文章にして人びとに伝える。

池澤が自ら生業と自覚しているのは、
いわば旅の報告をすることで、旅の資金を得るというような
ささやかな経済のサイクルだ。

でもその一方で、
沖縄についての語ったコトバのなかで印象にのこったのは

「書いていくうちに、
 ここは素晴らしいところです。
 だから、あなたたちは来ないでください、ということになってしまう」
というところ。

意志としては、日本を沖縄に染めようとしていたのに、
たんに沖縄が消費の対象になってしまい、
じぶんもその輪のなかに荷担しているという矛盾。
沖縄について語れば語るほど、沖縄が損なわれていく。