コメディだった。




ついにここに、実写版ロボット・アクション・コメディという新ジャンルが誕生した。

映像の面では革新的な試みを頑張っていても、ツッコミどころの多いストーリー展開のせいで、多くの人の失笑をさらってきたマイケル・ベイだが、じぶんの特性にドンピシャな素材についに出会ったようだ。
もうこれからは、脇目もふらず『トランスフォーマー』シリーズを量産していただきたい。
もちろん良識あるオトナたちにバカにされるのはこれからも変わりないけれど、『トランスフォーマー』はいままでのマイケル・ベイ映画にはない爆発的な楽しさがある。(なぜかインタビューを読むと、「オレがロボット映画なんて、最初はどうかと思ったよ」などと謙遜しているが、いやいやあなた以上にこのジャンルにふさわしい人はいなかった)

車から変形するロボットたちのアクションシーンがもちろん白眉で、
市街地をロボットたちの戦場に一変させたラスト30分のアクションシークエンスのためだけでも、チケット代を払う価値があるほど、見せ物としてのパフォーマンスは高い。
しかし、ぼくが注目したいのは、青春コメディ映画としての側面。
童貞青年の醸し出す(いごこちのわるいような)空気をうまくつかまえている場面のほうだ。

まずまっさきに挙げたいのが、
ジョン・ロビンソン(『エレファント』にも出演している)の木登り。
湖畔でのハイスクールのパーティに繰り出した、主人公のサム(シャイア・ラブーフ)とマイルス(ジョン・ロビンソン)。
いちおう彼らは高校生たちが集うそのパーティの場で、女の子をひっかけようという腹づもりのようなのだけど、いざ女の子たちの前にでたところで、
マイルスは緊張のあまりか、唐突にその場にあった木にワシワシと登りはじめてしまうのだ。
「たのむから降りてきてくれ……」とサム。
この場面は、野生のリビドーが青年のうちに沸き起こるさまを表しているのかもしれないけれど、それにしたって木登り。なぜ木登り。このへん、DTの奇妙なテンションを、肌でかんじられる名場面。
このシーン以降、ジョン・ロビンソンの登場シーンがまったくないというの投げやりな扱いも素晴らしい。

もう一つは、サムが実家でメガネを探す場面。
恋心をよせるミカエラ(ミーガン・フォックス)とともに、夜の自室に忍び込み、物語前半のマクガフィンとなる祖父のメガネを、親に気取られないようこっそり静かに探すのだけど、これがどうしたことか、なかなか見つからない。
しかし、メガネが見つからないことに、たとえば「誰かが隠した」とか「知らずうちに別の場所に移していた」とか、そんな脚本上の展開はまったくなく、ただ部屋が散らかっていてなかなか見つからないなあというだけの場面が約10分。いくらなんでも引っ張りすぎだ。
このへん、ふってわいた初体験のチャンスをまえに、部屋のどこかにいつか買い置きしたままのゴムを探すも、なかなか見つからないときの焦りを、あまりに見事に活写している。

「いい車を買って、かわいい女の子といいことしたい」
ロボットアクションの裏にこっそり隠した非モテ男子たちの潜在的な夢から『トランスフォーマー』はまったくぶれていない。




データが充実しているウィキペディアの『トランスフォーマー』ページ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/トランスフォーマー_(実写映画)