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あ、そういえばぼく、2007年に生きていたんだ。
と、気付かせてくれる小説がある。
そして、三十代の男なんだと(けっして乙女ぢゃなかったんだと)
認識させてくれる小説がある。



森健と、前田司郎のふたりは、そういう小説を書く。
ぼくが、同じ世代の小説家として
信頼をおいているふたりだ。
じぶんとともに歩んでいく、独特の感覚がある。

で、前田の新作、『グレート生活アドベンチャー』。

冒頭から、すごい。すごく、同時代だ。
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/200705/maeda.html
(新潮のサイトで、試し読みできる)

よんだら、わかる。最初の2行で、もう、うちのめされる。
わかるわかる、と何度も相づちをうつ。

おなじ「設定」をつかって、たとえば村上龍なら、もっと陰惨な小説を書くだろう。
阿部和重なら、もっと破壊的な小説になるだろう。
でも前田司郎は、シアワセなハッピーエンドへと、この物語を導く。
それがどんなにすごいことなのかを、説明するのはむずかしい。

ヒリヒリと焼けつくような現実感や、
取り込まれそうな暗い影を、かんじながら、それでもなおハッピーエンドへと向かっていく。
ハッピーエンドまで疾走する。
そんな芸当をするには、小説的な特殊な脚力が必要で、
たとえるとそれは、綱渡りをしながら、早歩きできるような才能だとおもう。