近未来。温暖化の危機を乗り越えるため、
政府し東京を森林化し
巨大な積層都市を建造するプロジェクトを推し進める。

……というSF的背景のなかで
マンガチックなキャラクターたちが大暴れする。
戦車だろうと切り裂くブーメランを武器に、中空をとびまわる女ゲリラに
その母親役で下ネタ大好きのニューハーフ。
じぶんにウソをついた人間が北斗みたいな破裂死をむかえるという能力をもつ、十二単を着つづけるわがままな女の子。
その女の子に仕える、忠誠心の強いマッドサイエンティストな女医。


去年の「このミス」的各種ランキングで一様に評判の高かった、
池上永一の『シャングリ・ラ』を読み終わった。
構造のしっかりしたエンターテイメントで、
すきあらば(ちょっとでも詰まらなくなったら)途中で投げ出そうとかんがえていたけれど
500ページ強をさいごまでめくらせられてしまった。
といっても
しっかり3ヶ月くらいかかったけど。
「もういいや、もう放り出したい」
なんて弱音を吐きたくなったころ
キャラクターのレイアウトがガラッと変わって、
いままで接点のなかった主要キャラ同士が対面したりすると
それなりの興味がむくむくと湧いてきて
もうちょっと読もうかしらんとおもううちに、最後までいった。
関係性をツイストしていって
コマ(キャラクター)を無駄なく、うまく使っているという感じ。

ところでたいていの人は、
自己犠牲を伴ってまでは、地球のために何かをしようとはしない。
だから政府も、
地球をまもるためってな殊勝な動機ではなくて
「炭素経済」という新しい経済理念のもとに
ひたすら利己的に、強引な森林化を推し進めて
住まいを奪われた難民たちがゲリラ化するという状況には
みょうな説得力があった。
政府は基本的に我々のためにわるいことしかしない、という皮膚感覚に合っているというか。


池上永一のほかの作品を、あわてて買いにはしるってことはないのだけれど
刺激的な時間つぶしはできた。
……と、書くと
まるで誉めていないみたいだ。
でも面白かった。
エイブラムスのテレビドラマ『LOST』は
途中で投げでしたぼくが最後までつきあえたのだから
飽きさせない技術は、かなりあるはずで
日本の小説でテンションの持続する骨太のエンターテイメントを読んだのは
梅原克文の『ソトンの悪魔』以来かもしれない。