土曜の夕方の回のシネスイッチ銀座は
日本橋高島屋の食料品売り場みたいにおばさまたちで賑わっていて
ウディ・アレンの映画で立ち見が出るなんて予想もしていなかったのは、
ぼくだけでなく劇場の人もだったみたいで、対応にあわわあわわとしていた。
aade50cd.jpg

よくいわれていることだけれど
ニューヨークを離れ、ロンドンで撮影をしたことが
『マッチポイント』にとってすごくうまく働いている。
街に注がれる視線に新鮮な熱があって、
都市観光映画としての役割をキッチリ果たしているのだ。
その街ガイドも、しっかりと文系人間対応になっていて
ジョナサン・リース・メイヤーズとエミリー・モーティマーとの
出会いの舞台となったロイヤルオペラハウスから始まって、
はじめてのデートをしたサーチギャラリー、
運命の分かれ道となったテート・モダン、
そしてメイヤーズのアリバイづくりに使われるパレスシアターまで
ストーリーの要所に観光スポットが入るというか
むしろ観光スポットのあいだにストーリーが乗っかるというか
「あら、ロンドンてステキね〜」
と気分はすっかりおばさまになって、
文化のカオリにこころを浮き立たせながらラストのどんでん返しまで楽しんだ。

(イカ、ネタバレ)

たぶん一般ウケとしては
リングのシーンで
観客に「ああっ」とおもわせて
スパッとおわらせた方が良いのだろうけれど
「倫理じゃなく、運なんだ。」
とそれを反転させる馬力こそがウディ・アレンならではで、
実体幽霊との遭遇を経て
ラストシーンでのメイヤーズの物憂げな表情は
怪物的なすごみがあった。



この数年では珍しいほどの美しくオーソドックス(凡庸な、ではなく)な画面は
初タッグの撮影監督レミ・アデファラシンの功績なのか。
すばらしい。


監督: ウディ・アレン
製作: レッティ・アロンソン
ルーシー・ダーウィン
ギャレス・ワイリー
製作総指揮: スティーヴン・テネンバウム
脚本: ウディ・アレン
撮影: レミ・アデファラシン

出演: ジョナサン・リス・マイヤーズ……クリス・ウィルトン
スカーレット・ヨハンソン……ノラ・ライス
エミリー・モーティマー……クロエ・ヒューイット・ウィルトン
マシュー・グード……トム・ヒューイット